学校で喧嘩して、窓ガラスを割った息子にかける言葉
私の夫は血が濃い。そのため沸点が低いのかちょっとしたことでもすぐに怒り出す。さすがに大人になった今では簡単に人に手を上げなくなったけれど、まだ中学生くらいだった頃はすぐに手を上げていたので、学校の問題児だった。不良グループに属していた夫と、学級委員だった私が結婚したときは、同級生みんなが晴天の霹靂のようだと驚いていたものだ。「怖くないの?」と心配してくれる人もいたけれど、その点はあまり心配ない。夫はカーッと血が上るけれど、サーッと冷める、怒りがあまり続かないタイプの人なのだ。だから一瞬の夕立さえやり過ごせば後はカラッと爽やかなので、場所で例えるならハワイのような人だ。それに何を隠そう…私も実は夫と同じくらい、いや、夫曰く夫以上に血が濃い。しかも私の場合はそれが長く続くタイプだ。夫から日本の梅雨と揶揄されても仕方ないと思える。
「そんな私達の子どもだから仕方ないよ」
私は息子にそうやって言葉をかけた。それが学校で喧嘩して、窓ガラスを割った息子にかけた言葉である。『あなたのお父さんも、通った道だからね』とはあえて言わなかった。もちろん二度とやってはいけないときつくお灸をすえたけれど、夫が中学生の頃にした数々の悪行を思い出すと…、この先何度頭を下げなくてはならないのかと嫌な予感ばかりが先に立つ。それに私の血をちゃんと受け継いでいるとするならば、きっとこの子は校長室に乗り込んで先生たちの悪行を暴露したり、担任とやりあって教室に籠城したり、なんてことも…するかもしれない。夫に似た輪郭や、私に似た目元を見ていると、近い将来、私達のしてきたアレコレが息子によって再現されそうな気がしてならないのだ。
『あぁ、親孝行しよう』それは息子との帰り道、唐突に湧き上がった感情であった。